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誤射かもしれない
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「欲しいものを手に入れたいだけ」


..YGO!/海城。

 派手にやられた。しかも顔だ。登校すれば教師に呼び出されるくらいの派手さで、友人たちにも散々心配された。また喧嘩かと呆れられながらも親身に気遣われたし、事情を知ってる友人には神妙な顔をさせてしまった。こんな風に顔に傷を作ると色々とうるさいので最近は気をつけていたのだがいかんせん相手が悪かった。
「捨ててしまえ、そんなもの」
 案の定色々とうるさいものをひっくるめての筆頭が眉を顰めて言う。
「できるかよ、そんなこと」
 切れた口の端が喋るとぴりぴり痛む。傷口に触るのはよくないと知りつつも舌先で痛みをなぞった。僅かな鉄の味に顔を顰めれば、更に痛みを潜ませた顔が近づいてきた。自分が殴られたわけでもないのに、いや仮に殴られたとしても絶対にこの男が見せることはないと断言できる表情で、棘も、憐れみもない。この男がこんな顔をするなんて他人には信じられないだろう。
 ん、と喉の奥で声を零して、伸ばされた赤い舌を受け入れる。仮にも傷口にいいのかと思うほど絡んだ唾液が水音を響かせて、ぴりぴりした痛みがぬるりとした心地よさに変わって、常に居丈高な男が瞬きもせず傷を労わる様を密やかな優越感で見下ろして、そして水音は互いの口の中に消えた。舌と舌で混ぜ合って二人で味わって、鉄の味なんか忘れて甘さに脳みそが融けそうになる頃にようやく解放される。は、と息を吐いて、次に吸い込んだ空気まで甘い。
 いつの間にか身体の方は男の腕にすっぽりと捕らわれていて、吐息のようにちいさな声が耳をくすぐった。
「そんなもの、捨ててしまえばいいのだ」
「うん、ごめんな」
 本当はこんな話をこの男としたくはない。捨ててしまえと唆す男は事実捨て去ってしまっていて、捨てる、という解放と呪いを知っている。だから話したくないのだけれど、捨てられないから傷を作るし、傷を作ればこの男は痛みを分かっているから唆す。
「捨てられないんだ」
「いつか死ぬぞ」
「でも俺にはお前がいるから」
 大丈夫、耐えられる、死んだりしない、痛くない、……。
 続く言葉がいくつか浮かんで、結局どれも口にすることはできず、被さる男の背に腕を回した。
 お前がいるから、うれしい。結局そう呟いたのか呟かなかったのか、回された腕にぎゅうと力がこもった。応じるように抱きしめ返す。多分この傷と痛みもこうして二人を繋ぐ鎖のひとつだと思う。だから捨てられない。きっとお前は納得なんてしないんだろうけれど。



(沁々三十題/群青三メートル手前)
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 Sound Horizon Live Tour 2009 - 第三次領土拡大遠征 - 横浜公演
2011年3月3日
 DISSIDIA 012 FINAL FANTASY
2013年3月14日
 スーパーロボット大戦UX
2015年6月28日
 Splash!3
2016年4月23日
 劇場版『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』
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