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誤射かもしれない
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「僕に言えることは、ひとつしかないから」


...GSD/キラさんとアレックス・ディノさん。本編前。

 もう表に出ることはできないけれど、せめて影から彼女を支えてやりたいと思う。要約するとそういう話だったのだけれど、彼がちらちらと気まずげに視線を逸らしたり含んだ言い方をしてみたりするものだからなんだか無駄に話は長かった。
 僕と彼を繋ぐテーブルの上には、ピカピカ新品のIDカード。証明写真に写っているのは間違いなく彼の顔だけれど、その他の情報は全部彼ではない、適当に架空の誰か。
 ちょいとカードを摘んで、じっと見つめる。じろりと視線を走らせて持ち主の名前を読み上げる、もちろん心の中で。アレックス・ディノ。誰それ。視界の端では彼がギクリと顔を強張らせたようだった。別に深い意味はなかったんだけどな、そんなにビクビクされると意味もなく腹が立つ。何を考えてるかなんて手に取るように分かってしまう。僕に対して後ろめたいんだ。もっかい言うけど腹が立つ。別に後ろめたく思う必要なんてないのに、なんでそんなふうに思うの。こんなにご機嫌伺いみたいにして僕に話しかけるぐらいなら、決める前に話してくれればよかったのに。じゃなかったら、最初から、やめておけばいいのに。
「そう」
 とりあえず僕は一言口にした。いちいちびくつく彼がほんとに鬱陶しい。馬鹿。そんなの君の気持ちの問題じゃないか、思うようにすればいいでしょ、僕の気持ちも彼女の気持ちも放っといてさ。ほんと馬鹿。
 対面する彼の行動全部、いっそ存在そのものにまで苛立つわけだけれど、確かに彼女が心配なのは僕も同じだった。だから、
「カガリを守ってあげてね」
 そう付け足して、笑った。嫌味なく笑えているはずだ。だってこれは本心だもん。
 心底ほっとしたような拍子抜けしたような、またそんな顔をする彼に限界まで腹が立ったけれどしょうがない。他に僕に何が言えるっていうの。アレックス・ディノさんはひょっとしたらどっかで彼女を庇って死んじゃったりするかも知れない。そんなことがあったらこれが最後の会話になりかねないんだから。無駄なケンカで終わりたくないじゃない。
 こうして彼はこの家を出て行って、僕はひとつ大人になった。でもこれだけは言わせてほしい、心の中でだけど。アスランの馬鹿。ヘタレ。



(沁々三十題/群青三メートル手前)
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